Dec,2021/机上の霧

<机上の霧>は、<In the fog>という作品を中心に構成した。

<In the fog>は、タイトルの通り霧をモチーフとしている。私は幼い頃から、「霧」という現象が好きだった。濃霧の中にいると視界が不明瞭になり、1メートル先すら把握できない状態が、怖さと同じ分量だけ楽しかった。霧は視界だけではなく、音をも歪ませてしまうため、日常とは違う世界に迷い込んだような感覚になる。人間の領域ではない場所に足を踏み入れたのではないかとすら、思ってしまう。全身の感覚を使い、霧の中に自分自身の肉体を溶かすように意識を解放し、私は濃霧という現象を味わうように楽しんでいた。

今住んでいる街では、濃霧と出会う機会はない。時々、あの感覚を懐かしく思い出していると、「ああ、世の中そんなに明瞭でなくて良いよね」と思うようになった。見えすぎる不自由は、全てが可視化された現代とも重なった。

非日常の現象となってしまった霧を、私はデスクの上に設置してみた。書斎に現れた霧は日常に歪みを生み出した。誰かに手紙を書く合間に、ふと顔を上げると靄の間に自分の姿が見え隠れする。自室にいながら、まるで霧の中にいるような錯覚に陥ることに成功した。

日本には〈机上の空論〉という言葉がある。頭の中だけで考え出した、実際には役に立たない理論や考えを意味する。アートはアーティストのイメージを鑑賞者に伝える〈装置〉だと私は考える。その場で誰かの役に立ち、救うことは少ない。だが、鑑賞者の心に語りかけ、消えることはなく、ゆっくりと染み込んでいくだろう。

この作品は、アートと私たちの関係を示す装置である。

Dec,2021

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